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国立大学法人 佐賀大学 教授

佐賀への移住は
「おもしろい」選択。
先が予測できないからこそ、
ワクワクドキドキする道なのです。

徳留 嘉寛さん

県と国立大学がともにコスメ事業に関わる。
こういう例は他にありません。

現在、私が行っている研究は大きく2つに分かれます。1つめは佐賀県産の素材を使った化粧品の開発にまつわる研究で、佐賀県産の素材の有用性や安全性を科学的に検証しています。2つめは皮膚の奥に化合物を入れ込むための研究。化粧品の効果を示すには、皮脂で覆われている皮膚の中に化合物を送り込む必要があり、そのための技術を開発しています。

化粧品業界に身を置いて20年以上。僕が佐賀に拠点を置いたことは学界ではかなりインパクトがあったようで、「なぜ佐賀に?」とよく尋ねられます。その理由は、まず、佐賀県産の農作物におもしろいものがたくさんあるから。そして、佐賀県が化粧品産業に対して分かりやすく深く関与しているから。組織の中にコスメ室がある県なんて、他にありませんからね。また、佐賀大学にもこうした県の動きをサイエンス側からしっかり支えていきたいという意思が感じられ、大いに共感しました。地方自治体と国立大学がタッグを組んでコスメ事業に関わっているなんて、かなり進んでいるなと感じましたね。

佐賀でもっとおもしろいことができると確信しています。

先ほど、佐賀県の農産物はおもしろいと言いました。白いキクラゲや白いイチゴなど、関東にはない珍しい農産物が多いのも「おもしろい」と感じる理由ですが、それだけではありません。
僕がよく使う「おもしろい」とは、予測ができないものであり、ドキドキワクワクさせてくれるものだということ。言ってみれば、佐賀県への移住そのものが僕にとっては「おもしろい」選択でした。何かを変えられる可能性があるのかないのかもわからない。10年後には何が起きているのかもわからないし、もしかしたら自分は路頭に迷ってもいるかもしれない。でも、それでもいいやと思わせてくれる選択肢が佐賀だったのです。

僕自身、まだ自分に期待しているんですね。もっとおもしろいことができると思っているから、ここにいる。この先誰かと一緒に組む場合も、そういう人とやっていきたい。他県で働いていたかつての僕の教え子の中には、わざわざ佐賀に引っ越してきて、今一緒に研究している人もいます。こうして佐賀大学の学生や卒業生、全国にいる僕のかつての教え子たちがここで一緒に研究していけたら、彼らはみんな佐賀県の宝になります。

コスメ構想は正しい方向に進んでいる。
これからが勝負です。

僕が薬学部の学生だった頃、就職先といえば食品か医薬品、化粧品のいずれかの企業の研究室でした。その中から僕が化粧品業界を選んだのは、「化粧品が幸せな人をより幸せにする」業界だから。とても感覚的な世界なんですよ、化粧品って。ほしいものや好みに合うもの…研究員も常に消費者目線で物事を考えられないといけなくて、そこがまたおもしろい。

だから、佐賀県産の化粧品づくりをするうえでも、消費者の動向を読むマーケティング的な考えを忘れちゃいけない。研究だけがおもしろくてもダメなんです。化粧品には、原料をつくる人、商品を企画する人、実際に売る人など、多くの人が関わっていて、そんな人たちが持つすごい考えや想いを科学として表現してあげるのが、僕らの仕事なんだから。生産者と研究者と消費者目線のマーケティングと、この3つが連携しながら機能しないと。そうして生産者と消費者との間をうまくつないでいって、みんなで幸せになれるようなコトで佐賀県を興していけたらいいですよね。

実際にこっちに住んでみて思うのは、佐賀の人は本当に地元想いでいい人ばかりだということ。皆さん協力的で、受け入れ体制が整っています。コスメ構想が広がっていくなかで、最近ようやく化粧品科学というものを多くの人が認知してくれるようになりました。試み自体は正しい方向に進んでいるという手応えがあるので、ここからが勝負です。成果を焦らず長い目で、この地に日本一のコスメ産業を育てていくんだという強い意思があれば、絶対にそうなれます。

何事もおもしろいと思えるかどうかが
人間の能力であり、研究の本質。

佐賀大学の学生やもっと若い世代の方々にも、佐賀県がこういう取り組みをしているということを広く知ってもらいたいですね。文系、理系に関わらず、何かをやりたいと思っている人にはできることが必ずあります。

何より大事なのは、1人ひとりの興味や好奇心。人間の能力とはおもしろいと思えるかどうかであり、これこそが研究の本質でもあります。僕のことを“スゴイ先生”なんて言ってる場合じゃなくて、学生には僕を越えるような何かを1つでも見つけて卒業しろと言いたいですね。僕も学生たちのスゴイところを吸収しているんだし、それが一緒に研究をやる意義なんです。

大学の学びは自分で調べて考えることであり、研究はまさにその縮図でしょう。研究中は失敗や苦労の連続でも、世界で自分しか知らないことが今、目の前で起こっている──そんな、確実に自分がいちばんだと思える瞬間がある。だからおもしろいんです。若い方々には何にでも興味を持って取り組み、低くてもいいから山頂に立ってみてほしい。そこから見える景色は、きっと以前とまったく違うはずです。

 

国立大学法人 佐賀大学 教授

徳留 嘉寛さん

1995年静岡県立大学大学院薬学研究科博士前期課程(修士課程)修了。専門分野は化粧品科学、皮膚科学、薬剤学、生物学。1995年より大手化粧品メーカーの研究所を経て、武蔵野大学、城西大学で教鞭をとる。2021年国立大学法人佐賀大学の特任教授に、2024年同学教授(化粧品科学講座)に就任。2022年からは佐賀県産業振興機構のプロジェクトリーダーとしても活動開始。他に日本香粧品学会理事、日本化粧品技術者会運営役員など、学会等の活動にも勤しむ。

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