50代までに起業する夢を追いかけ
佐賀を離れ、様々な仕事に携わってきた。
グレイスファームは、自社のハウスできくらげの栽培・加工・販売を行っています。一般的に知られている黒いきくらげも育てていますが、その変異種である白いきくらげ「白美茸」が弊社の看板商品のひとつ。洗顔石鹸の「白美の雫」をはじめ、「白美茸」を使ったオリジナル商品を販売しています。最近ではJCCに加盟する企業の方々から、きくらげを化粧品の原料に使いたいというご要望もあり、原料用としてもきくらげの提供を行うようになりました。
私(幸輔氏)の出身は佐賀県伊万里市ですが、佐賀に戻ってきたのは、きくらげ栽培がきっかけでした。かつては福岡市で30年近く裁判所勤めをしており、仕事にやりがいを感じる一方で、若い頃から起業の夢を持ち続けていました。
「次のチャレンジをするなら50代までに」と思い、49歳で裁判所を自主退職。ボランティア活動などを経て、大分県でコンクリート工学専攻の大学教授の研究成果を世に出すお手伝いを始めました。コンクリートの長寿命化を実現するための原料づくりや、その際に出る大量の熱を有効活用するゼロ・エミッションの仕組みづくりに携わっていたのです。この熱を農業で活用したらどうかという考えから、北海道の夕張市に熱活用をベースに産業を興す提案も検討していましたが、なかなかスムーズにはいきませんでした。
「おもしろい!」胸が高鳴った
全国的にも珍しい白いきくらげの栽培。
そんな中で出会ったのが、白いきくらげです。佐賀県唐津市に全国でも数えるほどしかいない白いきくらげを生産している「グレイスファーム」という会社があると聞き、「おもしろい!」と直感。早速、当時住んでいた福岡から唐津市に通い、栽培のお手伝いをさせていただきました。
お手伝いを始めて1年ほど経った頃、社長が若くしてお亡くなりになり、一緒に仕事をしていた社長のご両親も高齢であったため、代わりに白いきくらげの栽培を続けてほしいと頼まれました。農業経験はわずか1年ほどでしたが、不安よりも「おもしろくなりそうだ」という思いの方が強かった。もともと世の中にはなかった変異種の白いきくらげに、とてつもなく心惹かれていたのです。
ある日、白いきくらげの中の透明なジェルの部分が、何時間放置しておいてもずっとプルプルのままだという事実に気づきました。私は疑問に思ったことはとことん調べて、答えを探す性格です。「ひょっとして、白いきくらげにはものすごい保水性や吸水性があるのでは?」。佐賀大学に協力を仰いで細かい成分分析をしてもらい、白いきくらげに関してはどこにも負けないほど詳細なエビデンスを手に入れることができました。これが自社商品を作るきっかけにもなったのです。
きくらげ栽培は気くばり、目くばりが肝心。
商品の販売市場はアジアへと広がっています。
きくらげの栽培に携わり始めて約10年。白いきくらげは特にデリケートですから、変色や変質をしないよう、気配りや目配りが肝心です。栽培用のハウスは、断熱材を吹き付けた上に二重構造にし、出来るだけ外の天候の影響が及ばないような造りに。酸素不足にならないように定期的に外気を取り入れますが、基本的にハウス内はエアコンやミストをかけ、1日あるいは年間を通じて、温度や湿度に大きな変化が出ないよう調整しています。きくらげは菌床に切れ目を入れて約3週間から1カ月で収穫の時を迎えますが、夏場の熱い時期は10日前後で成長。傷をつけないよう、1枚ずつハサミや手で丁寧に収穫します。
白いきくらげは食品にしてよし、コスメの原料としてよし。とても優れた可能性を秘めています。体にとって欠かせない重要な栄養素のひとつにビタミンDがありますが、きくらげにはビタミンDのもとになる「プロビタミンD」が豊富。その含有量は、黒いきくらげよりも白いきくらげの方が多いんです。このプロビタミンDをビタミンDとして採りだすことができたら、強い骨を維持したり免疫を高めたり、現代人の健康をサポートする商品開発の役に立つはず。今、私たちはビタミンDの含有量が多いきくらげパウダーを開発し、その有効活用について県立唐津南高校と共同研究を行い、そのメンバー8人とともに特許出願をしています。
多くの方に喜んで購入いただける魅力的な商品をいかに開発し、PRしていくかが今後の課題。2022年4月からは台湾で「白美茸」を使った洗顔石鹸の販売も始まり、日本だけでなくアジアの市場を見据えたPR活動も考えています。
情熱を持った農業従事者が多い佐賀県。
生産者の声を反映したプロジェクトに期待。
10年前までは1%未満だった国産きくらげの比率が、今では5%を超えるまでに増えました。私たちは県内の意志ある生産者の方にきくらげの栽培技術を伝えて、佐賀県にきくらげ産業を定着していけたらと考えています。まずは、国産きくらげの可能性を多くの方に知ってほしい。きくらげって今まで脇役のイメージだったかもしれないけれど、そうじゃないよ、と。化粧品や健康食品など、いろいろなものとコラボできる可能性があるし、食べる人と使う人、つくる人をつなぐ主役にもなれる。そんなスーパー主役級の食材なんだよと、多くの人に伝えたい。私たちのスローガン「美と健康とワクワクを!」を胸に、これからもチャレンジを楽しみたいと思っています。
佐賀は研究熱心な生産者の方が多い県。私たちはきくらげですが、同じように佐賀県ならではの貴重な素材を、情熱を持って育てていらっしゃる方々が大勢いらっしゃいます。コスメ構想には、そうした生産者同士が連携を取り、生産者の声を反映させたプロジェクトになってほしいですね。私がJCCの理事をお引き受けした理由も、佐賀産の農水産物が事業とつながり、地元の生産者の利益につながればと考えたからです。働いた分だけ収入に結びつく農業、自分が育てた商品に付加価値がつけられる農業が実現するのであれば、農業に携わる方々の仕事や後継者となり得る若者の意識もきっと変わっていく。そう信じています。