自分自身が楽しくデザインできて、
地元を盛り上げられたら最高。
本業はグラフィックデザイナー。現在は、デザイン業務の傍ら、加唐島の椿油を使ったスキンケアアイテムを開発し、「TBK cosme」シリーズとして展開中。つばき油を活かしたドレッシングなど、食材開発にも携わっています。
出身は佐賀県唐津市の呼子です。15歳の時に、嫌いだった地元を離れて福岡へ。デザインを学び、名古屋や福岡でデザインや販売戦略のディレクションに携わりました。2010年に仲間とデザイン事務所[株式会社バーズ・プランニング]を設立。その後、仲間と仕事の方向性が異なり事務所は解散しました。
デザインの依頼を受けるだけでなく、自分で何かを作りたいという意欲が出てきたのは、2014年に携わった美容商材のパッケージデザインがきっかけでした。唐津市関連の仕事が増えたこともあり、2015年に唐津に帰郷。地元を盛り上げようと色々なグッズを作り、たくさん失敗もしてきました。作るのは簡単でも、売るのって大変なんですよね。
それでも私はものづくりが大好き。自分自身が自由に楽しくデザインできて、地元が盛り上がるようなものをブランディングできたら。そして、その商品がバーズ・プランニングのデザインを象徴するようなツールになったらいいなと考えたのです。
加唐島の椿油をコスメの原料に。
島の困りごとをサポートして信頼を育む。
商品化につながる地元の素材を探す中、父が教えてくれたのが加唐島の椿油でした。加唐島のやぶ椿は100%天然育ち。その椿種から作る油は、コスメの原料としてのポテンシャルもとても高いんです。しかも、加唐島の島民みんなで種を収穫しているという。これなら椿油の取引を介して、島全体の活性化にも貢献できます。
ところが、取引を依頼したところ島の人からは反対の声が上がりました。「きつい」、「誰が収穫するのか」、「新しいことはしたくない」……。何しろ、島の人口の65%以上は高齢者。すべては深刻な後継者不足から出てきた声でした。私はそこをまず、解決しようと提案し、草刈りから収穫のお手伝い、街の看板など、商工会の方と協力して自分たちにできることは何でもやりました。次第に知人たちも協力してくれるように。こうした活動を通して陸と島との交流が復活。島の方々も私たちの取り組みを認めてくださいました。
加唐島の良さは「人」なんです。島の人々が採った椿の種は、いろんな人の手を通して、いろんな人に分けられる。それがみんなの喜びになるんですね。「TBK cosme」を通して加唐島の椿油の価値が上がり、全国の人が加唐島の暮らしを知りたいと言ってくれたら、きっと島のじいちゃんやばあちゃんたちも喜びます。
ゴミをゴミでなくす方法を模索。
高校生との共同研究も楽しみです。
多くの離島がそうであるように、加唐島も高齢化が進んでいます。どんなに島の人々が協力的でも、椿の種の収穫はだんだん難しくなるでしょう。ロボットの導入など、次代を見据えた対策も考えなくてはなりません。
また、最近はオリジナル商品を開発し、販売した後の責任も感じるようになりました。たとえば、種の搾りかすをどうするか。今、東京の銭湯に送って入浴剤として使ってもらったり、コンポストに入れて肥料にしたり、活かす方法を考えています。ゴミを減らす意識を持つのはもちろん、ゴミをゴミでなくす取り組みにも力を入れていきたいですね。
2022年の4月からは唐津商業高校の生徒さんたちと共同で商品開発に取り組みます。持続可能な取り組みに、若い人たちの力は欠かせません。できるだけ多くの子どもたちと関わる中で、地元の魅力やものづくりの楽しさが伝わればいいなと思っています。佐賀の子どもたちには、夢を持ってやりたいことに挑戦してほしいのです。
身体の内側と外側からきれいになる。
コスメ構想は佐賀だから生まれた取り組み。
コスメは、身体につけるもの。身体を守り、育んでくれるもの。だから、食べるものと一緒だと、私は思っています。食べれば内側からきれいになれるし、コスメの原料としても優秀。自然に恵まれ、実直な生産者が多い佐賀だからこそ、そんな優れた素材を育むことができる。今回のコスメ構想も、美しい自然、情熱ある人々、海外からも一目置かれる施設や設備など、いろんなものが整い、つながり合う佐賀県だからこそできることなんだよって、全国の人にアピールできたらいいですね。
佐賀は掘るほどに面白い県。私もこちらに戻ってきて佐賀の歴史や特産品について改めて学ぶ機会が増えました。自分のふるさとなのに、知らないことが山ほどあってびっくり。
私のように二足のわらじで仕事をしている人は今とても増えているし、これからは場所を選ばずに仕事ができる時代。仕事の軸足はこれまで通りデザインにありますが、開発した商品をマルシェに出店したり、講演活動をしたり、デザイン以外の活動を通してこれからも佐賀の魅力を伝えていくつもりです。
仕事でよく足を運ぶ東京にも呼子や加唐島に興味を持ってくれる若者が増えました。少しずつですが、新しい風が吹き始めているという手応えがあります。