ご縁を大切にして、
できることをやり続けていく。
クレコスは、母の恵子(現会長)が1993年に創業した会社です。創業当初から社会貢献につながる活動を続けているので、何か「特別な志を持って」というように捉えらりたりもするのですが、母はフツーの主婦というか、「当たり前のことを当たり前にする」という精神性で、家庭でも会社でも、それを実践しているということなんです。
クレコスのコーポレート・アイデンティティである「大地母(大地を母にして)」には、母なる大地の恵みをまっすぐ肌に届けたいということと、昔から日本人に伝わる良さ、人と自然のつながりとか、人と人との助け合いとか、そういった部分も大切に受け継いでいきたいという想いが込められています。
僕は現在、新潟にある、障がい者の自立支援などを行うNPO法人の副理事をしているのですが、それもまたご縁です。新潟にクレコスの直営店を出店したときに、障がい者施設の方が「自分たちと何かやってもらえないか」と相談に来られて、たまたまそれを受けたのが僕で、そこから一緒に化粧品をつくりましょうということになって、そのサポートは十数年続いています。会社としてというよりは、自身のライフワークに近いです。
ご縁でつながったところで、自分たちができることをやり続けていく。その基本の部分は、30年前から何も変わっていないんですよ。
素朴な疑問や気づきからスタートした
国産オーガニックコスメという発想。
クレコスを立ち上げた30年前というのは、国内に〝自然派化粧品〟というジャンルはありましたが、オーガニックという言葉すらありませんでした。原料会社が原料をつくるのが当たり前で、決められた原料を選んで調合する、それが昔の化粧品業界の常識だったんです。
母もそういう業界で働いていて、自分たちがつくっているコスメの「原材料を知りたい」という当然の疑問を持ったそうです。例えば食事をするときに、「このお米はどこ産で」とか普通に知りたいですよね。でも、当時の業界ではそれが当たり前ではなかった。だったら、自分たちで原料からつくればいいんじゃないかという発想に行きついて、全国あちこちから素材を分けてくれる農家さんを探すということを25年前くらいからスタートして、現在に至っています。
こういう原料がほしいとなったときに、その元となる素材をつくっている農家さんがいらっしゃったら、そこに行って「分けてもらえませんか」とお願いして、そこから買ってきて自分たちで加工する。ごくごく普通のことをやっているんです。
例えば、国内に耕作放棄地がたくさんあることに気づいて、そこで栽培したものを原料として積極的に取り入れていったら、やがては地域の活性にもつながるんじゃないかとか、普通に生きていく中での当たり前の気づきを何らかの行動につなげて、それを繰り返してきたことが、今の自分たちの結果になっているのだと思います。
“行政が近い”佐賀県だからこそ、
新たな取り組みへの期待が持てます。
佐賀県とのご縁は、2015年に唐津東高校の生徒さんたちが、佐賀県産のグレープフルーツを使ったリップクリームをつくりたいということで、ジャパン・コスメティックセンター(JCC)から協力依頼を受けたことが始まりでした。そこから、ちょくちょく佐賀に足を運ぶようになって、2018年には、クレコスの新工場「唐津コスメティックファクトリー FACTO」をオープンしました。
工場を唐津につくった理由としては、“行政が近い”という点も大きいです。
佐賀県や唐津市のように、行政にコスメの部署があるというのは全国的にまずなくて、我々からすると行政というのはやっぱり遠い存在なんですよね。佐賀県や唐津市の場合は、僕らみたいな小さな企業の話もちゃんと吸い上げてもらえるし、一緒に考えてくれる。行政のフットワークが軽くて、いろいろなことがやりやすいし、面白いことができそうだなと思いました。
工場は唐津市から施設を借り受けて運営しているのですが、つくる際に当初の予定を変更して、内装を何も施さないスケルトンの状態にしてもらいました。普通は、設計図通りに納品しますというのが当たり前なのですが、唐津市が要望を聞いてくれて、地域の方たちにも参加してもらってDIYでつくり上げました。
FACTOは、農産物の原料化から製品化まで1カ所で完結できる工場なのですが、単に化粧品をつくるだけではなくて、地域の人に「ちょっとコーヒーを飲みに来た」くらいの感じで気軽に来てもらえる、何か楽しいことを提供できる場所になればなと思っています。
みんながWin-Winになれる
仕組みづくりがすごく大事だと思う。
今、僕がやっているのは、化粧品会社としての仕事よりもコンサルティング的なことが中心です。素材を持ち込まれて、「これを何とかできないか」という案件が多いんです。現地に直接足を運んで、素材を使ってその地域を何とかしたい人たちのサポートをどうやっていくかというのを、ここ数年ずっとやっています。
そういうことをやっていると新しい素材の情報がたくさん入ってくるので、コスメ構想でこれまでに培ったノウハウを使ってどう原料化するかという、佐賀県や唐津市がそのコアになれればいいんじゃないか、「植物を原料にしたければ佐賀に相談したらいいよ」くらいのポジショニングを取れれば、面白いんじゃないかと思います。
何かしたい方とか、化粧品をつくりたいけれどどうしていいのか分からないという方は全国にたくさんいて、そういう人たちって不思議とつながるんですよ。それが面白いし、みんなが楽しくなれることをやりたい。僕らも楽しいし、農家さんも楽しいし、商品を購入する方も楽しい。関わるステークホルダーが、みんなWin-Winになれるような仕組みをつくることが、すごく大事なことだと思います。
一つ一つ、地道なことをサスティナブルに続けていくことが大事で、5年・10年の単位でちゃんと続けないと信頼も生まれないし、そういうことができる、ゆるいチームみたいなものがつくれたらいいなと思っています。