○佐賀県知的財産を大切にし、みんなで守り、育て、新たに生み出す条例

令和4年6月30日

佐賀県条例第19号

佐賀県知的財産を大切にし、みんなで守り、育て、新たに生み出す条例をここに公布する。

佐賀県知的財産を大切にし、みんなで守り、育て、新たに生み出す条例

佐賀県には、日本の磁器発祥の地で創業400年以上の歴史を誇る「伊万里・有田焼」をはじめとした陶磁器や、富山、大和、近江と並び日本四大売薬として配置売薬業が発達した田代売薬で生まれた貼り薬「朝日万金膏」等の医薬品、世界的な品評会でも高く評価されている日本酒等、その製法・技術といったものを大切に受け継ぎ、活かし、そして次世代に繋いできた歴史がある。

近年においても、「佐賀牛」や「佐賀海苔 有明海一番」等世界に誇る高品質な農林水産物ブランドや、「いちごさん」、「にじゅうまる」、「サガンスギ」といった佐賀の農林水産業の未来を担う新品種が生み出されている。また、世界最高強度の磁器材料や陶磁器では初となるメタリック調の新しい上絵具の開発等の試験研究の成果は、他の人に模倣されないよう佐賀県の特許として登録されている。

こうした当時の人々の生活を助け、豊かにするために開発された製法や、未来を見据えて開発された技術などは、関わった人々の高い志と熱意、そして長く、幅広い知的な創造活動によって生み出されたものであり、「知的財産」と呼ばれている。

このほかにも、映像や音楽、デザイン等、私たちの身近なところにも様々な「知的財産」がある。

「佐賀さいこう!」、「九州佐賀国際空港」といった佐賀のブランドイメージを高めるための商標や、「歩こう。佐賀県。」、「SAGA2024」といった県のプロジェクトを推進するためのポスター等の著作物もそうである。

こうした優れた知的財産は、一朝一夕に創出されたものではない。最初に生み出した人と、その質を高め、技やイメージを守っていく人、それぞれの存在があるからこそ、佐賀の技術や商品、ブランドには大きな信頼が寄せられている。「佐賀だから、佐賀の人がつくったものだから間違いない」という思いは人から人へと伝わり、新しい佐賀のものづくりの原動力となっていく。

しかし、長い時間をかけて築き上げた信頼も、崩れるときは一瞬である。

園芸農家の方々の大きな期待を背負ってデビューしたかんきつ「にじゅうまる」。20年以上の年月をかけて品種開発し、関係者による栽培や品質、流通といった管理を徹底することで、販売開始から佐賀県を代表するかんきつブランドとなった。

そうした中、その苗木が不正に流出し、県外で「にじゅうまる」として販売されていた事案が発生した。大切な苗木が持ち出され、関係者による適切な管理がなされていない生産物が市場に出てしまうと、そのブランドへの信頼は大きく失われ、ブランドを大切に育ててきた人たちの努力が無になるおそれがある。

そうしたことは決してあってはならない。

優れた知的財産を守り、育てることで、発明や創作自体の付加価値を高めるばかりでなく、人と人とを結び付け、生産性を高め、そして地域そのものの評価を高めることができる。だからこそ、一人一人が、知的財産について正しく理解し、尊重し、活かしていく社会をつくっていく必要がある。

このため、佐賀の未来を担う貴重な知的財産を、県民みんなで守り、育てる気運をさらに高め、そして佐賀ならではの強みを生かした新たな知的財産を生み出す好循環が佐賀の地に深く根を張ることを目指して、この条例を制定する。

(目的)

第1条 この条例は、本県の知的財産の保護、活用及び創造に関する基本理念を定め、並びに県、事業者、県民、大学等及び市町の責務を明らかにすることにより、本県の未来を支える貴重な知的財産を保護し、及び適切に活用するという県民一人一人の意識を高めるとともに、本県の特色を生かした新たな知的財産の創造を推進し、もって将来の世代にわたる産業の振興、文化の発展及び地域の活性化に寄与することを目的とする。

(定義)

第2条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1) 知的財産 知的財産基本法(平成14年法律第122号。以下「法」という。)第2条第1項に規定する知的財産をいう。

(2) 知的財産権 法第2条第2項に規定する知的財産権をいう。

(3) 事業者 事業(農業、林業、漁業、製造業、小売業その他あらゆる事業をいう。)を営む法人その他の団体及び個人をいう。

(4) 大学等 法第2条第3項に規定する大学等(県の試験研究機関を除く。)をいう。

(基本理念)

第3条 知的財産の保護、活用及び創造は、次に掲げる事項を基本として行わなければならない。

(1) 知的財産の保護、活用及び創造に係る事業者及び県民の創意工夫及び活動を尊重し、知的財産が公正に利用される社会的気運を醸成すること。

(2) 知的財産の保護、活用及び創造を通じて産業及び文化の付加価値を創出し、新たな事業分野への進出を促進することにより、産業の振興、文化の発展及び活力に満ちた地域社会の実現を図ること。

(3) 研究、開発、教育その他の知的活動を活発に行うとともに、それらにより生み出される知的財産の集積及びその質の向上を図っていくことにより、本県の将来にわたっての発展のための基盤の整備を図ること。

(県の責務)

第4条 県は、前条に規定する知的財産の保護、活用及び創造に関する基本理念にのっとり、次に掲げる施策を策定し、及び実施するものとする。

(1) 知的財産が尊重される環境を醸成すること。

(2) 知的財産の保護、活用及び創造に係る人材及び次世代を担う人材を育成すること。

(3) 県、事業者、大学等、市町及び知的財産に関する専門的知識を有する者との間の連携の強化を図り、知的財産の保護、活用及び創造に資する基盤の整備を図ること。

(4) 知的財産を活用した地域ブランド(商品の販売又は役務の提供に際し使用する呼称で、当該商品又は役務に対し、地域の特色を生かした一定の品質が確保されているとの信用を付与するものをいう。第6条第3項において同じ。)の保護、育成及び創出を支援すること。

(5) 事業連携、出資等を通じた知的財産の活用並びにその活用による新たな製品開発及び技術改革が、公正かつ継続的に行われるよう支援すること。

2 県は、自らが有する知的財産を保護し、及び当該知的財産に対する侵害行為を防止するために必要な措置を講ずるとともに、侵害行為が発生し、又は発生するおそれがある場合には、関係法令に基づき適切に対応するものとする。

3 県は、知的財産を意識した組織経営を行い、自らが有する知的財産の積極的な活用を図るとともに、自ら有用性の高い知的財産を創造するものとする。

4 県は、前各項に掲げる施策を推進するため、基本構想を策定するものとする。

(事業者の責務)

第5条 事業者は、知的財産を尊重した経済活動を行うことにより、本県の産業の振興、文化の発展及び地域の活性化に寄与するよう努めるものとする。

2 事業者は、知的財産を活用するに当たっては、当該知的財産に係る権利及び義務を十分に理解するとともに、他者の知的財産権を侵害する行為を行わないようにしなければならない。

3 事業者は、当該事業者が有する知的財産について、他者からの侵害行為その他不当な行為を受けるおそれがあることを認識し、必要な対策を講ずるよう努めるものとする。

4 事業者は、知的財産の活用及び創造により、付加価値の創出及び新たな事業分野の開拓を図るとともに、地域における雇用の機会を創出するよう努めるものとする。

5 事業者は、発明者、技術者その他の創造的活動を行う者の適切な処遇を確保するよう努めるものとする。

(県民の責務)

第6条 県民は、知的財産に関する理解を深めるとともに、知的財産を尊重する社会の形成に積極的な役割を果たすよう努めるものとする。

2 県民は、事業者が行う知的財産の保護、活用及び創造に係る活動の促進に向け、真正な製品又は役務の購入、活用等により、知的財産を尊重した活動を行うよう努めるものとする。

3 県民は、知的財産を活用した地域ブランドの消費の拡大、魅力に関する情報の発信等に協力するよう努めるものとする。

(大学等の責務)

第7条 大学等は、知的財産を尊重した研究を行うとともに、研究の成果を普及させることにより、本県の産業の振興、文化の発展及び地域の活性化に寄与するよう努めるものとする。

2 大学等は、知的財産の保護、活用及び創造に関する教育を行うことにより、専門的な知識を有する人材を育成するよう努めるものとする。

3 大学等は、研究者、技術者その他の創造的活動を行う者の適切な処遇を確保するよう努めるものとする。

(市町の責務)

第8条 市町は、知的財産の保護、活用及び創造について、県、事業者及び大学等と積極的な連携協力を行い、産業の振興、文化の発展及び地域の活性化に寄与する取組を行うよう努めるものとする。

2 市町は、住民への知的財産に関する教育及び学習の振興並びに知識の普及に努めるものとする。

(施行期日)

1 この条例は、公布の日から施行する。

(佐賀県知的財産の創造等に関する基本条例の廃止)

2 佐賀県知的財産の創造等に関する基本条例(平成21年佐賀県条例第7号)は、廃止する。

佐賀県知的財産を大切にし、みんなで守り、育て、新たに生み出す条例

令和4年6月30日 条例第19号

(令和4年6月30日施行)